とっつきにくい「限界利益」と「限界利益率」の意味とは?
「利益面については、堅調な受注を背景とした工場の安定稼働による『限界利益』の増加と合理化の徹底により、営業利益、経常利益および当期純利益は増益となる見込みです」「『限界利益率』が高い商品の販売数量が増加すれば、必然的に儲けも大きくなる」......。
このようにビジネスパーソンが見聞きする機会も多い「限界利益」あるいは「限界利益率」という言葉。
「限界」という言葉がついているためか、どうしてもとっつきにくい印象を与えますが、「固定費」と「変動費」がわかれば理解しやすい言葉です。
まずは先に「固定費」と「変動費」を知る
上でも述べた通り、「限界利益」や「限界利益率」といった言葉を理解するためには、まず先に「固定費」と「変動費」をきちんと知ることが大切です。
「固定費」と「変動費」は、事業を行う際の支出、すなわち費用を分類したもの。
「固定費」とは、”売上に関係なくかかる費用”のことで、代表的なものには人件費や家賃(不動産賃借料)などがあり、これらは仮に売上が全くなくても支払わなければなりません。
一方の「変動費」は、”売上に比例して増加する費用”のこと。代表的なものには原材料費や仕入原価などがあり、これらは売上に比例して支払う額が増減します。
- 「固定費」
= ”売上に関係なくかかる費用”
(例)人件費、不動産賃借料、減価償却費、リース料など
※仮に売上が全くなくても支払わなければならない - 「変動費」
= ”売上に比例して増減する費用”
(例)原材料費、仕入原価、外注費など
「限界利益」や「限界利益率」といった言葉に苦手意識を抱いている人の中には、これら「固定費」と「変動費」をあまり深く考えていない人も少なくないようですが、この二つの言葉の意味がきちんとわかれば、「限界利益」と「限界利益率」もすんなりと理解することができるようになります。
「固定費」と「変動費」から「限界利益」を考える
そして本題となる「限界利益」について。
喫茶店を例に考えてみましょう。喫茶店経営では、仮にお客さんが全く来なくても、人件費や家賃といった”売上に関係なくかかる費用”である「固定費」を支払わなければなりません。
「固定費」をまかなうためには、お客さんにコーヒーやホットケーキなどを販売し「売上」を増やしていけばよいのですが、残念ながら「売上」がそのまま自由に使えるお金かというと、そういうわけではありません。
そう、「売上」からコーヒーを作るための豆やホットケーキを作るため小麦粉といった仕入原価など、”売上に比例して増減する費用”である「変動費」を差し引いた額が実際に自由に使えるお金であり、その中からさらに人件費や家賃といった「固定費」をまかなうことになるのです(そして残った金額が利益となります)。
この、お客さんにコーヒーやホットケーキなどを販売した「売上」から豆や小麦粉の仕入原価である「変動費」を差し引いた利益(「固定費」を捻出する財源となる利益)のことを「限界利益」と呼びます。
- ”「売上」から仕入原価など「変動費」を差し引いた利益”
(「限界利益」=「売上」-「変動費」)
※「限界利益」から「固定費」を捻出すると考えてよい
「固定費」「変動費」「限界利益」「売上」の関係
例えば月の「売上」が500万円、「変動費」が150万円、「固定費」が300万円の喫茶店の場合、「限界利益」は〈500 - 150 = 350〉で350万円。この350万円から「固定費」の300万円を支払えば、50万円の黒字となります。
- 「売上」 500万円
・「変動費」 150万円
・「限界利益」 350万円(「売上」-「変動費」)
・「固定費」 300万円
⇒ 50万円の黒字(「限界利益」-「固定費」)
これが「固定費」「変動費」「限界利益」「売上」の関係です。繰り返しますが「変動費」は「売上」に比例して増減します。
また、「限界」という言葉は経済学の用語として特殊な意味を持つ言葉ですが、ここでは「限界」の一般的な意味である”それを超すことは不可能”で解釈してもよいかもしれません。
つまり「限界利益」とは、そこから「固定費」も捻出しなければならないし、それ以上の利益を生み出すことは不可能ですよ、という数値だと考えることができます。
「限界利益」から「固定費」を支払うことができ、利益が余れば黒字
ここまで読んで、ビジネスパーソンのみなさんならもう気づいたはず。
そう、「限界利益」から「固定費」を支払うことができ、さらに利益が余れば黒字、「限界利益」から「固定費」を支払うことができなければ赤字となるわけです。
そして「固定費」と「変動費」がまかなえる、”利益がゼロになる(赤字でも黒字でもない)売上高”のことを「損益分岐点(損益分岐点売上高)」と呼ぶわけです。
- ”利益がゼロになる(赤字でも黒字でもない)売上高”
⇒「固定費」と「変動費」がまかなえる売上高ということ
極論かもしれませんが、事業とは(販売数量を増やすことで)「売上」と(仕入れ価格を下げたり付加価値をつけることで)「限界利益」を増やし、その中から「固定費」を支払い、黒字を増やしていくゲームだと考えることができます。
「限界利益率」とは?
続いて「限界利益率」について考えてみましょう。
「限界利益率」とは、”売上に占める限界利益(売上-変動費)の割合”のこと。〈「限界利益額」÷「売上」 × 100〉で求めることができます( × 100 は % で表すためにかけます)。
この「限界利益率」の数値は、一般的には高いほうがよいとされています。
- ”売上に占める限界利益(売上-変動費)の割合”
(「限界利益率」=「限界利益額」÷「売上」 × 100)
⇒一般的には高いほうがよいとされている
先ほども例に出した月の「売上」が500万円、「変動費」が150万円の喫茶店の場合、「限界利益」は〈500 - 150 = 350〉で350万円でした。
この喫茶店の「限界利益率」は、〈350 ÷ 500 × 100 = 70(%)〉で70(%)となります。
すなわち、1万円の売上なら7000円、10万円の売上なら7万円、100万円の売上なら70万円が「限界利益」となり、この中から「固定費」を捻出していくことになるわけです。
「限界利益率」は高い方がよい、「固定費」は少ない方がよい
一般的には「限界利益率」は高い方がよい、「固定費」は少ない方がよいとされています(もちろん一概には言い切れないところもあります)。
したがって、経営者は利益率の高い商品を販売することで「限界利益率」を高めたり、余計な経費をかけないよう「固定費」を削減することを好みます。
中には「限界利益率」を低くして販売数量を増やす戦略をとる経営者もいますが、そのようなケースでは、以下のような経営の特徴があるとも言われます。
- 薄利多売の商売である
- 固定費、特に家賃や人件費を極端に抑制する傾向にある
- 従業員一人一人の負担が増え、ブラック企業化しやすい
- キャッシュ(現金)が枯渇しやすく自転車操業に陥りやすい
もちろん、あくまで、このような傾向になりやすいということであり、全てが全てこのような特徴を持つというわけではないという点には注意しましょう。
「限界利益」と「限界利益率」を用いた具体的な文例
と、ここまで、それぞれの言葉の意味を見てきましたが、具体的な文例でイメージをつかみましょう。
まずは「限界利益」から。
- 自分が経営するお店の「限界利益」を算出し損益分岐点を導き出せば、固定費の削減がどれくらい必要かが具体的な数値で見えてくる。
- 利益面については、堅調な受注を背景とした工場の安定稼働による「限界利益」の増加と合理化の徹底により、営業利益、経常利益および当期純利益は増益となる見込みです。
続いて「限界利益率」。
- 「限界利益率」が高い商品の販売数量が増加すれば、必然的に儲けも大きくなる。
- 損益分岐点を下げるためには、個々の商品の「限界利益率」を高めたり、合理化により固定費を削減するといった手法がある。
- 同じ5億円の売上の減少でも、販売数量が変わらず値下げにより5億円売上が減った場合には、そのまま5億円の減益となるが、値段が変わらず販売数量の減少が要因で売上が5億円減った場合には、「限界利益率」が5割ならば2億5千万円の減益となる。
それぞれの言葉が持つイメージがつかめたでしょうか。
いずれにせよ、「限界利益」と「限界利益率」は様々なシチュエーションで見聞きする機会が多い言葉であり、ビジネスパーソンとしては最低限の知識は持っておきたいもの。
あれ、どんな意味だっけ?と忘れてしまったら、ぜひ「固定費」と「変動費」に立ち戻って考えてみてください。
以上、「限界利益」と「限界利益率」の意味と使い方についての説明でした。みなさんの参考になれば幸いです。
- 限界
(Wiktionary) - 限界(経済学)
(Wikipedia) - 限界利益
(Wikipedia) - 損益分岐点
(Wikipedia) - 質問です。「限界利益」とは何ですか?
(Yahoo! 知恵袋) - 製造業の場合と販売業とでは計算方法に違いがあるのですか。
(Yahoo! 知恵袋)
※本記事は2017年5月時点の情報を元に執筆されたものです。あらかじめご了承ください。